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「研究紹介」#2 Characterization of Patients with Metastatic Renal Cell Carcinoma Undergoing Deferred, Upfront, or No Cytoreductive Nephrectomy in the Era of Combination Immunotherapy

Voila!泌尿器科専門医の竹村です。
この度,カナダ出国直前に投稿していた「減量腎摘」に関する論文がEuropean Urology Oncology(Impact Factor 8.2)より出版されました(Characterization of Patients with Metastatic Renal Cell Carcinoma Undergoing Deferred, Upfront, or No Cytoreductive Nephrectomy in the Era of Combination Immunotherapy: Results from the International Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium)。
本研究は,転移性腎細胞がんにおける減量腎摘(原発巣である腎臓を摘除することで,全身療法の治療効果向上や予後延長を目指す治療法)の意義について,多施設共同研究により明らかにする試みでした。
研究内容を要約しますと,一次治療として免疫チェックポイント阻害薬が導入された385例において減量腎摘は206例で実施され,減量腎摘を受けた患者の生存期間は減量腎摘を受けなかった患者よりも有意に長かったことが示されました。
同様のデータは,かつてのインターフェロン薬時代や分子標的薬時代には存在しましたが,現代の複合免疫薬時代においては最新かつ最大規模のエビデンスとなります。
カナダで腫瘍内科医に囲まれる中で泌尿器科医として減量腎摘の実際や適応について質問されることが多かったこともあり是非とも遂行したかった研究でしたが,その道のりは決して平坦ではありませんでした。
選択バイアスの軽減
「腎臓摘除」という介入の有無によるアウトカムの差異をみていることから,選択バイアス(=腎摘症例は,そもそも全身状態や病勢が良好なことが多いため,見かけ上,腎摘の効果が上乗せされる)が問題となります。
選択バイアスの影響を減ずるためにおこなうべき代表的な対処法としては,以下が挙げられます。
1. 各群の背景因子の差異を確認する
2. 背景因子が異なる因子で,かつアウトカムに影響を与えそうな因子によるサブグループ解析や多変量解析をおこなう
3. 背景因子を同時に揃えて検討するためには,傾向スコア(ロジスティック回帰分析により算出)を用いたマッチング法あるいは逆確率重み付け法(IPTW)による補正をおこなう
本研究でもこれらの手法を用いて極力選択バイアスの影響を取り除けるように努めましたが,特に3. に関しましては深夜までプログラムのコードの書き直しが必要となる寝不足の日々が続きました・・・
そうして磨き上げた力作を投稿しましたが,査読者から新たな課題を突きつけられることになるのでした。
不死時間バイアスの軽減
統計学を専門とする査読者から幾度となく指摘されたのは,不死時間バイアス(=減量腎摘を受けた症例は,手術を受けるまでの時間分は必ず生存しているため,その分の不死時間が減量腎摘を受けなかった症例よりも生存期間に上乗せされる)という点についてでした。
本研究のような後方視的検討では,介入(=減量腎摘)を受けるまでの期間がバラバラですので,不死時間バイアスが問題とされます。
不死時間バイアスの影響を減ずるためにおこなうべき代表的な対処法としては,以下が挙げられます。
1. 介入のパラメータを時間依存性因子として解析する(介入の有無のみではなく時間因子を含めたパラメータにする)
2. 全症例の中で最後に介入がおこなわれた時点を起点(t = 0)として,生存時間解析をおこなう
結果的に計6回もの改訂を余儀なくされ,検討解析となる患者が当初よりも削減されることで,導かれる結論にも少なからざる影響が出ました。
こうして初回投稿から8ヶ月以上という長い時間を経て泌尿器科領域でトップクラスのジャーナルでの出版まで漕ぎ着けた際には,嬉しいというよりは安堵の気持ちが主に感じられたというのが正直な感想でした。
大変骨の折れる作業でしたが,トップクラスの査読者とのやり取りを通じて多くのことを学ぶ貴重な機会となりましたし,本研究を含めた我々の臨床研究の趣旨にご同意いただいて快く参加を承諾下さった転移性腎細胞がんの患者様やそのご家族の方々に改めて感謝の意を表したいと思います。
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