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「研究紹介」#3 Outcomes of Patients with Brain Metastases from Renal Cell Carcinoma Receiving First-line Therapies

Voila!泌尿器科専門医の竹村です。
この度,ASCO GU 2023でオーラル発表させていただいた「転移性腎細胞がんの脳転移」に関する論文が出版されました(Outcomes of Patients with Brain Metastases from Renal Cell Carcinoma Receiving First-line Therapies: Results from the International Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium)。
本研究は,臨床試験で除外されることの多い(=Evidenceが蓄積しづらい)脳転移を有する腎細胞がん症例を対象とした国際多施設共同研究ですが,泌尿器科学領域で最高峰の学術雑誌であるEuropean Urology(Impact Factor 23.4)に掲載していただけたのは,別に私が素敵な研究手法や華麗な英語表現を披露できた訳でもなく,ただただ愚直に「みんなが求めてはいるけれど,なかなか信頼に足るデータが世の中に存在しなかった(=Unmet Needs),痒い所に手が届くような研究」が遂行できたからではないでしょうか。
研究結果の要約
本研究の要点は以下の3点に集約されます。
1. 2014年以降に全身治療が導入された4799例において脳転移は389例(8.1%)という比較的高い割合で認められ,脳転移を有する患者では,脳転移を有さない患者よりも生存期間が短かった
2. 「全身治療」として,免疫チェックポイント阻害薬を含むレジメン(例:オプチーボ・ヤーボイ)で治療を受けた症例では,分子標的薬のみのレジメン(例:スーテント)で治療を受けた症例よりも生存期間が長かった
3. 「脳転移に対する局所治療」として,定位放射線治療を受けたか脳外科手術を受けた症例では,全脳照射のみ受けたか無治療だった症例よりも生存期間が長かった
研究結果の臨床応用性
上記結果を踏まえて,我々の日常診療はどのように変わるのでしょうか?
まずは,意外にも高い脳転移症例の割合を踏まえると,脳転移に特有の症状(例:痙攣,麻痺)の有無に関わらず脳転移の検索を全身治療開始前におこなうことを検討するのが良さそうです。
実際に,本検討では脳転移に特異的な症状の有無は予後と関連しなかった一方で,局所治療の有無は予後と関連しました。脳転移への早期の治療介入が予後延長に寄与する可能性はあると思われます。
つぎに,脳転移の診断が確定したら全身治療・局所治療の併用を検討するのが良さそうです。本検討では,これらの治療法を独立した因子として解析したので,併用することによる上乗せ効果までは述べることはできませんが,やはり治療効果を最大化するという意味において集学的治療には大きな意味があるように思われます。
そして,治療シークエンスについて。あくまで理論上の話にはなってしまいますが,脳転移の局所治療に際して使用されることの多いステロイド薬は免疫チェックポイント阻害薬の作用機序と拮抗してしまう可能性があります。そのため,可能であれば局所治療を先行させて,ステロイド薬を中止あるいは減量してから全身治療に入るのが合理的な治療戦略であるように思われます。
研究結果の限界
本研究の最大のLimitationは後方視的研究であることです。
それゆえに,選択バイアスの影響は免れません。すなわち,臨床現場では「強い治療は元気な患者に施される」ことが多いため,見かけ上,強い治療の治療効果が一層高く見積もられてしまうという訳です。
本検討では,4回の査読者とのバトル改訂作業の中で,可能な限り様々なバイアスを排した上で,「本研究では因果関係ではなくあくまで関連のみを検討した」と明記することや,因果関係を想起させる表現(例:prolong, improve, benefitなど)をことごとく変更することを条件に,最終的にアクセプトしていただけました。
これまでの私の論文発表の経験の中では,ここまで厳密に表現の修正を求められることはなかったので,European Urologyクラスの学術雑誌が世界に及ぼし得る影響の大きさを肌身で感じることのできる貴重な機会となりました。
まとめ
本研究は,現代の転移性腎細胞がんの脳転移症例における世界最大規模のエビデンスであり,今後の追試が待たれます。
本研究結果を元に,ダナ・ファーバー癌研究所(ハーバード大学)では転移性腎細胞がんにおける頭部MRIの保険適用を申請したという動きがあったことも聞いており,「転移性腎細胞がん診療の最先端の潮流に私が発案・実践した研究が僅かながら寄与できたのかも知れない」と,密かに興奮しております(早期頭部画像スクリーニングの是非の検討に際しては,前向き研究によるValidationが必要なのは言うまでもありませんが)。
本研究のアクセプトの知らせを共著者に知らせたところ,文字通り世界中の大御所達から祝福のメールが飛び交いました。医師・研究者にとってこんなに幸せなことはないと喜びを感じつつ,今後もグローバルなインパクトをもたらすような臨床研究を継続していきたいと思います。
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